
AVBの優位性
IEEEによって標準化されたAVB (Audio Video Bridging)は、その信頼性、品質、将来性から大きな注目を集めています。AVBは、従来のネットワークが苦手としていたリアルタイムでの高品質なデータ伝送を、イーサネット上で確実に実現するための一連の技術群です。
本ページでは、AVBおよびその一部規格であるMilanが持つ数々の「優位性」を、他のネットワークオーディオ技術との比較も交えながら詳しく解説します。
目次
オープン・スタンダードであることの強み:将来性と柔軟性
AVBの最も大きな特徴の一つは、IEEE (米国電気電子学会) によって策定されたオープンな標準規格であることです。デバイスの検出と接続確立のメカニズムだけでなく、デバイスをコントロールするコマンドも規格に内包されています。これはユーザーとメーカー双方に大きなメリットをもたらします。
Point!
- リスクの少ない賢い投資
- 既存のプラットフォームに密接に統合
- 複数の実装が共存可能
- ユーザー・エクスペリエンスはメーカーによるデザイン次第
異なる実装を共存させることも可能なオープンな標準規格です。日常生活での実装例として車での事例を挙げてみましょう。AVBを使うことで、後方カメラの映像データと後部座席で使用されるエンターテインメント・データを個別に扱うことができます。Appleは数年前からMacOSにAVBを統合しています。d&b audiotechnik、L-Acoustics、Meyer SoundなどのPAカンパニーやAVID、DSP4YOU、MOTU、PreSonuss、RMEなどのオーディオ・メーカーがAVBを採用しています。XMOSやBACH/ROSSなどの製品にも実装されています。
しかし、実装の仕方がメーカーによって異なるため、相互運用は保証されません。たとえば、製品によってストリーム・サイズやストリーム・フォーマットが異なる場合があります。これを打開するため、業界団体「Avnuアライアンス」は、プロトコル実装ガイドラインを厳格に定めたAVBのサブセット「Milan」を策定しました。
MILANについて
Milanは、AVBの一部(サブセット)を明確に定義した、相互運用性を保証するメディア・ネットワーク規格です。Milan製品はすなわちAVB製品でもありますが、すべてのAVB製品がMilan製品というわけではありません。つまり実装の際は、Milanの厳しい要件に適合するようにチェック/調整が行われる必要があります。
Milanは、AVB仕様の中から特定の機能や挙動を厳密に定義し、接続性と動作の確実性を確保しています。その結果、異なるメーカーの機器でもスムーズな通信が可能になります。

Point!
- 相互運用の保証 / AVBのサブセット
- 以下を実装:
- メディア・クロッキング仕様
- ストリーム・フォーマット仕様 / リダンダント仕様 / AVDECC(ATDECC)
- エンドポイント用仕様
RMEはAVB/Milan実装にあたり、これまでも既存のAVB製品をアップデートし必要な機能を追加し続けてきました。たとえば8チャンネル・ストリームにおける高効率32ビットAAFオーディオ・フォーマットのサポートなどがこれにあたります。スイッチに関しては、AVB対応製品であればAVB/Milan機器にそのまま使用できます(ただし、完全な相互運用性と信頼性を保証するには、Milan認証を取得したスイッチの使用が推奨)。
その他のネットワーク・オーディオ規格とAVB
AES-67/ST2110
AES67は、Audio Engineering Society(AES)によって2013年に策定された標準で、異なるオーディオ・ネットワーク・プロトコル間の相互運用性を確保するためのガイドラインです。この規格は、IPネットワーク上での高品質なオーディオ・ストリーミングのための共通基盤を提供します。また、AES67はSMPTE ST 2110の一部としても採用されており、特にST 2110-30およびST 2110-31でオーディオの伝送に関する仕様が定義されています。
- IPネットワークでのオーディオ・ストリームを定義
- デバイスの検出/接続の管理:無し
- デバイスの制御:無し
- ITの知見を有効活用
AES67は、オーディオ・ネットワーク・ソリューションそのものではなく、異なるプロトコル間の相互運用性を確保するための最小共通項として機能します。そのため、実際の運用では、デバイスの検出、制御、ストリーム定義、デバイス管理などの機能を追加する必要があります。これらの機能を提供するソリューションとして、ユーザー・インターフェース、エンドユーザー・トレーニング、サポート、診断ツール、バーチャル・サウンド・カードなどが含まれる場合があります。
例えば、Ravennaはブロードキャスト向けに設計されたソリューションであり、AES67との互換性を持ちながら、デバイス制御のメカニズムは統合されていません。そのため、Merging TechnologiesのAnemanなどのソフトウェアを使用して、Dante Controllerのような機能でデバイスを検出し、ストリームに接続することが可能です。
IPネットワーク・スケーリング
IPベースのネットワーク・スケーリングには、次のようないくつかの問題点があります。
- スイッチ管理の必要性:大規模なネットワークやVoIPなどの他のトラフィックが統合される場合、スイッチの設定が必要となります。タイミング精度に問題が生じた場合は、透過クロックを導入する必要があります。これは非常に高価な業務用PTP対応スイッチを必要とする場合があります。
- IPアドレスとサブネット(DHCP、ドメイン)の管理:デバイスは同一のサブネット上になければならず、順番に管理する必要があります。また、マルチキャスト・トラフィックの管理が必要となります。これにはIGMP(Internet Group Management Protocol)を使用することが一般的です。
- スタンドアローン・ネットワーク推奨:ネットワーク上で他のトラフィックの実行は推奨されません。オーディオのみに使用するスタンドアローン・ネットワークを構築することが望ましいです。
決定論的ネットワークを達成するには、オーディオ・エンジニアがスイッチのウェブ・インターフェイスやコマンド・ラインを駆使してこれら全てを設定をしなくてはなりません。
IPネットワークにAVBスイッチ・テクノロジーを導入する方法がありますが、これは実際にDanteネットワーク策定当初から計画されていたものの、後に計画は中止されました。2011年のホワイト・ペーパーをご参照ください。
これらに対し、Audinate社は独自のインターフェイス、モニタリング、ドメイン管理ツールを使用してネットワーク全体を独立したエコシステムに移動することにより、完成されたソリューション(Dante)を提供しています。これは、メーカーが統合し易い相互運用可能なソリューションですが、商標で守られていることから、コストとユーザー・エクスペリエンスのデザイン面で妥協を強いられることになります。
DanteとAVBの統合に関する当初の計画

Danteは厳密に言えばすでに2011年にはAVBに対応する準備ができており、明確な移行パスも示されていました。このノートは、DanteネットワークがAVBスイッチ・インフラからどのような利益が受けられるかを示しています。AVBに対応するアプローチはAudinate社により中止されました。理由は多くのユーザーがAVBスイッチを購入したがらないと推定されたからです。当時はスイッチは発売も品質保証も行われていませんでした。しかし、現在はその状況が変っています。

今日、AVB対応スイッチはLuminex、Cisco、Netgear、Arista、Extreme Networksなどの業務用製品に加え、PresonusやMOTUなどのメーカーからも登場し、市場は着実に拡大しています。AVBネットワークの大きな利点は、DHCPサーバーの設置や、VLAN、QoS、EEE、PTPといった機能に関する複雑な設定や監視が基本的に不要であることです。そのため、これらのAVB対応スイッチは、煩雑な設定作業なしにAVBネットワークの基盤として機能し、「接続すれば動作する」というシンプルな運用を実現します。
これらのAVBスイッチは、ネットワーク上のストリームを自動で検出し、それぞれがどのポートに伝送されるかを管理・監視します。将来的には、ポートの割り当てや接続状況といった情報をユーザーに提供し、より直感的なプラグ・アンド・プレイ型ネットワークの構築をサポートすることが期待されています。特別な機能や追加の規格・プロトコルを導入する必要はなく、AVBの標準仕様の範囲内で、これらの高度な機能は実現できます。ユーザーからは直接見えにくいかもしれませんが、そのための必要な仕組みは、すでにAVB規格の中に全て備わっています。
AVBにおけるAES-67

AES-67は、AVBのインフラによる恩恵を受けることもできます。規格内ではAVBの優位性を明示的に示しています:
- 帯域幅が確保されることで、メディアの確実なネットワーク伝送が可能
- 高品質な帯域幅とレイテンシー・パフォーマンス
これらの点から明らかなように、AVB/Milanスタンダードはパフォーマンス、信頼性、操作性において明確な優位性を持っています。今後、gPTPを認識し、ストリーム予約やトラフィック管理機能を備えたAVB対応スイッチがさらに普及することで、ST2110、AES67、Dante、Ravennaといった他のIPベースのネットワークオーディオ規格においても、AVBの基盤技術(高精度な時刻同期、帯域保証など)を活用する魅力が一層高まるものと期待されます。
