高い解像度と圧倒的な機能群を備えるハイエンド・コンバーターとして革新的な進化を遂げてきたRMEのADIシリーズに、新たなマスターピースとして登場したADI-2/4 Pro SEを、麻倉怜士氏、山之内正氏、生形三郎氏の3人にレビューいただきました。
“音の鮮度と忠実度にこだわるリスナーに強くお薦めできる製品だ”
オーディオ機器と録音の音質を評価する際は、再生環境の基準を堅持しておくことが重要な意味を持つ。基準がないと評価軸がぶれてしまい、何を評価しているのかわからなくなる。そして、基準となる音を確立するためには、ソース機器からスピーカーまで帯域バランスや音調に偏りのない製品を用意しなければならない。さらに、いったん決めたあとは基準機をむやみに変えない方が良いし、新しい世代の製品に置き換える場合は、以前の音を確実に継承していることを確認する必要がある。
そんな条件を満たすメーカーはけっして多くはないが、確実に存在する。私が信頼しているブランドの一つがRMEで、特にUSBオーディオについては長年にわたって同社のFirefaceシリーズを使い続けてきた。音源の形態が変わっても色付けのない再生音と合理的な操作性は一貫性を保っているし、設計変更や機能の拡張によって忠実度の高い再生音が変容することはない。もちろん性能面では着実な進化を続けているのだが、基準機として信頼がゆらぐことは一度もなかった。スタジオなどプロの現場で高い信頼を得ている理由はそこにあるのだろう。
最新のUSBインターフェースとして登場したADI-2/4 Pro SEにも同じことが当てはまる。ベースとなるADI-2 ProをはじめとしてRME製品の設計思想を忠実に受け継いでいて、音を出した瞬間、「いつものRMEの音だ」と安心感を抱いた。
とはいえ私が使っている製品とはいくつか世代の隔たりがあり、静寂感の表現や音場の見通しの良さなど、明らかな進化を聴き取ることができるし、声や旋律楽器の質感が高く、細やかな表情の変化を聴き取りやすくなったことにも感心させられた。録音と再生それぞれにおいて対応フォーマットが大幅に拡張されていることも見逃せないし、操作性も大幅に向上。パソコンとの連携に加え、スタンドアローンでの使い勝手の良さも私には新鮮に感じられた。
SEへの進化で見逃せない機能拡張は2つ。ヘッドフォンのバランス接続用に4.4mm5極バランス出力を追加したことと、MM型カートリッジを接続できるRIAAイコライザー機能の新設である。前者はバランス接続で音質を評価する機会が増えてきた昨今の状況をふまえたもので、試聴しながらADI-2/4 Pro SEのヘッドフォンアンプとしてのポテンシャルの高さを強く実感した。後者はレコード音源のデジタル化を視野に入れたものだが、チャンネル偏差や歪が少ないなど、デジタル信号処理の長所を確実に聴き取ることができる。LP再生に対応するUSBオーディオインターフェースは初めてではないが、私の知る限り、ここまで優れた性能を獲得した例は、ごく僅かにとどまる。音の鮮度と忠実度にこだわるリスナーに強くお薦めできる製品だ。
オーディオ・ビジュアル評論家:山之内 正
神奈川県横浜市生まれ。大学卒業後、オーディオ専門誌の編集を経て1990年に独立。オーディオ誌、クラシック系音楽誌など複数の専門誌に試聴記事を執筆するほか、Phile-web、AV Watch、Stereo Sound Onlineなどウェブにも記事を執筆。趣味はコントラバス演奏、オペラ鑑賞など。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社ブルーバックス)、「目指せ!音の達人」(共著、音楽之友社)など。



ADI-2 DAC FS
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